ウッドカービング教室[第78回]-ギルディング(6) レタリング(2)-

カービングした箇所にギルディングを施したサンプルの作り方を説明します。

まず、出来上がりから見てみましょう。

写真のように、太陽光の角度で光り輝く数字のサンプルは、見た目が非常に美しく目を引くものになります。

このギルディング作品を作るうえで、考慮すべきポイントは何か所かありますので順番に整理します。

ベースとなる下地

何を作るにしても、ギルディングを行う場合はベースが重要です。固く丈夫で、それでいて適度の柔軟性があり、それでいてある条件下ではハンドリング性能が非常に優れているもの。何を言っているかわからない、と思いますが、言っていることはただ一つ、例によってジェッソの生地づくりから始めます。ジェッソの生地についてはウッドカービング教室のこちらの回で説明しているので参考にしてください。

例によって、ジェッソで下地を作成します。今回の話はここから始めます。

ジェッソによる下地が重要である話は既にしました。そこでのポイントを踏まえて下地を作ります。

今回はジェッソの上にギルディングを行うわけではないので、完成度としてそれほど高いものを要求するわけではありません。ジェッソで仕上げた層の上にもう一層、重なるのです。ですが、いつもの習慣で今回もある程度の完成度の下地を作ります。ある程度というのは、この上にギルディングしても問題がない程度の完成度ということです。

さて、今回はここから墨黒(艶消し黒)のレイヤを重ねます。ひかわに墨黒の顔料を加えたものを用意し、ジェッソの層の上に重ねます。

これをジェッソの上に重ね塗りします。にかわは重ね塗りができますので、以下のようにだんだん墨黒に着色されていきます。

写真のとおり、結果として、真っ黒い生地ができあがります。にかわは自分の作業では入手性から日本製のにかわを使います。写真から見てもわかるとおり、結果として非常にしっかりした生地ができあがります。

なお、ギルディングを行う生地は非常にしっかりしていなければなりません。固ければ固いほど良いです。ガラスにギルディングをしたディスプレイなどを良く見かけますますが、まさにガラスなどはギルディングにまったく適した素材であると思われます。のちにサイズ塗布のところでも説明しますが、サイズを選定する際にも、そのことを十分考慮しなければなりません。

シート貼りとカービング

さて、次は素材に型紙(シート)を貼り付け、シートごと掘るという作業になります。シートは瓶などに貼るラベルと同じ素材です。わたしたちの作業は、ウォーター、またはサイズ・ギルディングを行うわけですから、水分が必ずシート近傍に存在します。水分があったとしても、素材に張り付けられた吸着力を維持できるシートでなくてはなりません。水分で剥がれてしまっては、作業にならないのです。この点が普通のマステで代用できない所以になります。

今回は数字が印刷されたシートを張り付けてシートごとカービングを進めます。このあたりのカービング技術はすでに習得されていることでしょう。主な注意点は2つです。

  • いつものカービングより、若干シャロー(浅く)に掘ること
  • どんなに小さな木くずも、絶対残さないこと

シャローにするのは、ギルディングの輝きを直接目に届かせるためであり、ごみを残さないのは、ギルディングの生地はそれくらいの注意を払って欲しいということです。

さて、カービングが終わりましたら、その上に直にギルディング、、

というわけではなく、カービングを行った表面を、もう一度顔料とにかわの混合液でコーティングします。どんなにスムーズにカービング切削面を仕上げたとしても、ごみを取ったとしても、木には導管というデコボコが必ずあります。それはどうしても仕上がりを汚くさせます。しっかり目止めをしなければなりません。コーティングはその意味で行います。にかわを使うのは、すでに説明しましたが、どうしても固い生地を必要とするためです。

コーティングが終わった段階で、素材は全面黒い板になるはずです。

ギルディング開始から完了まで

ここからギルディングを始めます。ギルディングの方法は先に説明したとおりですが、ここではサイズ・ギルディングを採用します。生地がしっかりできているはずなので、ウォーターギルディングでも問題なくできるはずです。ギルディング職人がギルディングを行う箇所に息をふきかけ、ギルディングを行っている動画を見ることがあると思いますが、人間の体温程度で充分な吸着性能を得ることができるのです。

さて、今回はゴールドもイミテーションを使用していることもあり、サイズ・ギルディングを採用します。

実はこのサイズ(アドヘンシブ=接着材)の選定は、経験上なかなか難しいと思っています。サイズはいろいろな種類が売られていますが、自分の感想では使えるサイズと、実は使えないサイズも存在すると思います。(メーカーは伏せておきます、興味のある方は教室までお越しください)

使えないサイズは、なかなか固まらないし、固さが弱いのです。

ウォーターギルディングの場合は、水は蒸発して消えてしまうので、金箔と下地の間には、普通はなにも残らないことになるのですが、サイズの場合、金箔と下地の間にサイズの層が必ずできてしまいます。そのためその層が、強固に固まらないと、ギルディングが汚くなり、非常に困ることになるのです。

シート剥がし

さて、なにはともあれ、ギルディングはできたとします。ギルディングの方法はすでに別の回で説明したとおりです。ギルディングが完成した状態は、おそらく以下の様になっていることでしょう。

ここまでできれば、あとはシートをはがすだけです。

シートをはがすとこんな感じになります。金色は黒がバックになると映えるので視認性が高まります。

次回以降でギルディングを行うカービング箇所の形状について、詳しくみていきましょう。