チゼル(平ノミ)1
話は、ツールの砥ぎ方に戻ります。
読者のみなさんがついてこれるか心配ですが、話題的には第16回からの続きになります。
今回はチゼル(平ノミ)についてです。
チゼルに関しては、彫刻刀の回でかなり詳しく説明しましたので、必要に応じてそちらの方も参照してください。
さて、チゼルですが、内側外側両方のサイドがbevelしている普通の木工工具とは違って、多くの場合、bevelは平らな形状です。(多くの場合というのは、例外もあるということですが)
また、heelだけを丸くするクラフトマンもいます。
さて、復習のため、bevelについて、もう一度説明します。
bevelは日本語に直すと、「傾斜」になりますが、実際はノミの”シノギ面”のことを指します。
”シノギ面”は、見た目平らに見えますが、実際はゆるく湾曲しているのがガウジの特徴だという話を今までしてきました。
以下の図を見てください。heelの場所がわかりますね。
平のみ(チゼル)のheelをカットして、届きにくいところまでツールが届きやすく加工するクラフトマンもいます。これは前回もお話しましたが、趣向の問題です。
さて、heelが取り除かれた場合、ツールはロッキング動作で砥ぐという風に、砥ぎ方自体が変わります。
ロッキング動作とは以下の動作のことです。
絵よく見るとわかりますが(あまりうまくないですが)、前方に平ノミを押し出すと同時に、ノミの柄の尻部を上げて、シノギ面をbevel加工する砥ぎ方です。
この研ぎ方でシノギを平らにするのですから、bevelは厳密に平らにはなりません。
ロッキング研ぎは、heelを落としたからできるということに注意すべきです。
heelを落とさないチゼル(平ノミ)でこの砥ぎ方をすると、ペタンペタンとシノギ面が砥石にくっつくため、この研ぎ方は物理的にできないのです。
また、ロッキング砥ぎの場合、切削角度を広げるないように注意しなければなりません。
この研ぎ方を行うと、歯先の角度が、鈍角になる傾向があるからです。
この研ぎ方は、和ノミの研ぎ方と対比させると、面白いことに気がつくと思います。(和ノミの砥ぎかたを知っていればですが)
和ノミの場合は、砥石に平行にノミを動かすので、砥いでいくと、よりシンギ面が鋭角になってしまう傾向があります。
この傾向を木工用語では”オオギレ”といいます。(要するにシノギ面が広がるということです)
刃砥ぎ器というカンナやノミのシノギ面を砥ぐ機器(以下写真)を使う場合、理論上オオギレには”なりにくい”のですが、人間というものはいつでも同じように砥ぐ歯を砥ぎ器にセットできるわけではないので、それでもシノギ面は動く(オオギレになる)可能性は残っています。
Veritas社製の刃先研ぎ器です。この手の研ぎ器はたくさん種類がありますが、個人的には上図のように刃先を上下で挟んでクランプするタイプが、やはり一番使いやすいと思います。
まず、ガイドを通常の位置でセットしてツールの基本的なベベル角度を研磨します。この研ぎを行うと、シノギ面は砥石が真っ平らであれば、それにならって真っ平らになるはずです。この作業は#1000番手くらいの中砥と呼ばれる粒度の砥石で行います。
次に、今使った砥石より少し粒度の高い砥石(#2000番くらい)の上に、ガイド設定ノブのターンによって設定したわずかに異なる角度でマイクロベベルを磨きます。要するに2段研ぎを行います。
この二次Bevelは小さいので、鋼はごくわずかしか取り除きません。そして、ごくわずかな研磨で刃先にBevelが到達することでしょう。
この一連の作業は、ガイド内のツールのクランプ解除またはリセットせずとも行うことができます。
5角形の治具は刃先の角度を決めるための治具で15°、20°、25°、30°、35°を選択できます。この5角形の治具にノミあるいはブレードを挟み固定すれば、この状態で刃先の角度はベースに対して意図した角度になるはずです。
その後、回転ローラーが付いた治具をブレードに装着しますが、その際ブラードのクランプ位置を調整することでベース面とブレードの角度を決定します。
そのままの状態で、5角形の治具を外せば、ブレードは砥石に対して意図した角度がついていることになるため、そのままの状態で刃研ぎを開始することができます。
ブレードによっては刃がブレードの進行方向に対して、スクエア(直角)である必要があります。この治具のガイドのベッドには、ブレードのサイドを視覚的に整列させ、ブレードをローラーに対してスクエアにセットするための平行線があります。
この特徴のため、誤って歪んで研いでしまったブレードを、スクエアに補正することが可能です。
ガイドのローラーはバネ付きの調節可能なカムシャフトに取り付けられるので、3つの異なる高さのどれか1つにローラーを設定し、自動的に位置をロックすることができます。
この仕様の最も重要なところは、ブレードを磨くたびにまったく同じ角度に戻すことができるということです。これにより、プロセスの精度が向上し、シャープニング時間が大幅に短縮されるのみならず、いつも変わらない研磨環境を提供し、問題があったら補正できるという点において、一般の日本のカンナ研ぎ器より、優れている研ぎ器であると言えます。