ツールのBevel

ツール(Bevel)のheel(肩)の際は、エッジより大きなRになっていることは見ればわかります。
しかし、ツールの内側にbevelをつけることによって、内側と外側のRの違いは小さくなります。(Bevelとは前回説明したシノギのことです。)
つまり、外側のbevelは平らに近くなるということです。
これは外側のBevelだけに着目した場合ですが、要するに内側、外側のBevelの半径(R)のバランスが大事ということです。
もうひとつ考慮すべき点はガウジは時折、凹サイドを下にして使うことがあるということです。
もし、内側のbevelが無い場合、ツールは材料の表面とほぼ平行になるくらいの低い位置で構えなくてはならなくなり、これはまったくもって不可能です。
内側にあるbevelがツールを理想的な切削角度で構えることができるようにさせます。
そして、ツールを押すときに、ツールが木に食い込むようなことを防ぐ、自然な動きを与えてくれています。
この内側のBevelをこすること(rubbing仕上げること)は、時には”opening the mouth”(ツールの口を開ける)という言葉で表現されます。
このツールの仕込み方法の例外は、すべての仕事をソフトパインで行う彫刻職人たちの場合です。
彼らは、内側のbevelを平らにします。こうすることによって美しく、薄いエッジが形作られ、それらは、柔らかい木の加工には理想的な形にとなります。
しかし、もし、これを硬い木に使うと、刃先はボロボロになり、欠けやすくなります。
ルネサンス以前の彫刻の作品でパインで作られた作品は、博物館や、本の写真でよく見ることができます。自分が見たことがあるのは、本の中の写真でしたが、それは素晴らしいものでした。
パインでできた彫刻作品に出合ったとき、ガウジの内側bevelの仕込み方法に思いを馳せ、当時の職人たちのテクニックとツールを想像することは、きっとその作品を作る過程を想像する材料になり、自らのスキルアップと作品を見る楽しさを倍増させることでしょう。
なお、ツールの”身”(厚さ)は薄いものほど良いツールであるとされます。
原理的には薄い物ほど、狭いところに届きますし、セットイン(後日紹介します)のときに切削面を押してしまう量を減らすことができるという利点があるからです。
日本のカンナ歯のように、刃先はハガネの合金になっているわけでありません。刃が合わせ鋼になっているのは日本の切削ツールだけです。
彫刻ツールは、いうならばオールハガネで出来上がっています。