ウッドカービング教室[第73回]-ギルディング(1) 準備-

木彫された鏡のフレームにギルディング(Gilding=金箔押し)を施す場合、2種類のギルディング方法(Oilとwater)があります。Oilとwaterは両方ともに、ジェッソでできたグランドの上に作成されます。ギルディングは、木彫フレーム、もしくは家具の施された箇所の装飾を強調するためだけでなく、テンペラ画のカーテンとばりにも同様に用いられます。以降ではギルディングの技法について何回かに分けて解説したいと思います。

以下の写真は市販の写真フレーム(100均で購入した物)にギルディングの練習をしたものです。ギルディング技術に関しては練習が必要ですので、同じ練習をワークショップでやっていただき、ある程度できる自信がついたところで、本番を取り組んでいただくような流れを考えています。

ギルディングのサンプル

ギルディングに適した木彫デザイン

木彫作品にギルディングを施そうと考えたとき、その技法に適した木彫デザインである方が、なにかと好ましい結果を得やすいでことは、容易に想像できるでしょう。ではまず、ギルディングに適した木彫のデザインとは何であるか?、という問題から考えてみましょう。仮に、フレームを作る場合を想定して考えると、フレームは丸みを帯びたモールディングとそれに続く彫刻されたレリーフで作られるべきと言えます。材料はパイン、マホガニー、ライム、ウォールナットを使うと失敗は少ないでしょう。なぜならば、これらの材料は目が詰まっており、バーニシングでみごとな輝きを得ることができるからです。一方、オーク(水ナラ)は避けた方がよろしいと考えられます。といのは、ギルディングの要求であるリッチネスと輝きを、オークの深い導管が与えないからです。

一般的に言って、ギルディングに適するモチーフのモデリングは、広くソフトなキャラクターが良いとされています。深いV-TOOLによる処理や、逆に浅すぎる処理は向いていません。また、彫刻を手前に浮き立たせて見せる効果を演出するアンダーカットは、できる限り避けるのが無難です。これはジェッソにより、目詰まりを起こし易いからです。見詰まりがなぜ問題となるかは、後段で説明します。

ジェッソの準備

最初のタスクはジェッソ生地のためのSIZEを用意することです。SIZEは英語で大きさを示す単語でもありますが、GULE(接着材)を指す単語でもあります。ギルディングで使う一般的なGULEは、SIZEと呼ばれますので、以降の説明ではSIZE=GLUE(接着材)と理解してください。まずSIZEの作り方から始めます。伝統的なSIZEの作り方から見ていきましょう。まず最初に、ヤギや羊のパーチメントカッティング(羊皮紙)を手に入れて1、2インチサイズに切り、水によく浸します。そしてそれを一晩付けておきます。朝、水を捨てて、ダブルケトルの中に羊紙を移します。水をおおよそ3倍入れます。ダブルケトルの外側ソースパンはお湯で満たし、3, 4時間沸点近傍で維持します。この時点ですべての破片は溶けて消えていることでしょう。

キメの細かいメッシュがある漉し器、またはナイロンストッキングの切れ端を使って、残余を小なべまたはジャーに戻します。こうやって、将来もう一度使うことができるようにします。sizeは冷却させ、固めます。この状態でしか、様々なギルディング作業に対応させることができません。

これは、ビギナーにとって、試行錯誤の連続になる作業です。SIZEが冷めて、指で押さえると砕けてしまう場合、この場合は柔軟性はありますが、固すぎます。SIZEを手のひらにとって2、3回叩ける場合は強すぎる(粘度が高すぎる)固さです。それ以外で目に見える見分け方法はありません。この場合、少量の水を加え、温めてからまた冷やします。同じテストでSIZEが砕けたり、フルーツゼリーに比較して同等になったら、まさしく使うときが到来します。

そうなったら、温め直しギルダーのWhitingを混ぜ木の切れ端か、刃先の丸まったテーブルナイフで全体が均一で、塗布作業をできるようになるまで、よくかき混ぜます。リンシードオイル(linseed oil)を2滴加えるか、ロシアン・タロー(Russian tallow)を加えてよく混ぜます。

そして、温めて、かき混ぜるともう使用できる状態になっています。

さて、SIZEはラビット・スキン・グルー(Rabat skin glue)と呼ばれることがありますが、日本においては「膠(にかわ)」として認識されています。「にかわ」は日本画や、襖絵や屏風への金箔貼りに使われることがあるため、比較的容易に画材店で購入することができます。以下は膠の写真です。

にかわの外観

膠の重要な特徴は常温では写真のような個体であるのに対し、温度を上げることにより液化する点です。主に温度を上げる際には「湯せん」という方法をとります。SIZEのところで説明したダブルケトルとは、「湯せん」のことです。以下の写真は実際に筆者が”開発”した「湯せん」マシンです。

「湯せん」マシン

構造は内側の白い瓶の中にジェッソ+膠+お湯の混合液を入れ、外側のコップとの間にお湯を入れて温度を調整する仕組みになっています。内側のジェッソが入った瓶はカゴメのサルサの瓶、外側のコップは100円均一ショップで売っていました、220円の瓶です。あり合わせのもので工夫してみてください。

さて、膠は温度を上げると、液状化し温度を下げると固化すると先ほど書きました。固化すると非常に硬いことから、指物(さしもの)や楽器などに古くから使われきました。例えば、指物の場合、ホゾが経年で細ってきてしまった場合など、暖かい蒸しタオルをホゾに当てると、膠が柔らかくなりホゾを抜くことができるようになります。そうして、抜いてから修理し、組み直したりすることができました。また、テーブルなどに見られる突板(つきいた)の場合は乾燥してから、表面の突板を寄せ直すというようなことも簡単にできたのです。このような芸当は現代の白ボンドを使った量産家具ではまったくできません。産業革命以降生産された家具は、効率重視で白ボンドを多用したため、修理できなくなってしまったのです。また、バイオリンの場合は温度が高いところに放置すると、膠が液状化して接合がはずれ、バラバラになるトラブルを発生することもありました。ですので、バイオリンは温度管理が行き届いた場所で、大切に扱われなくてはならないのです。

いずれにしろ、膠は液状化すればハンドリングができるようになるのですが、実は温度を上げ過ぎると今度は固化しなくなるという特徴があります。その温度はおおよそ70度くらいと言われています。そのため、扱いが非常に難しくなっています。「湯せん」しているのも温度を上げ過ぎないように注意しているためです。

なお、上限の70度を超えない限りにおいては、何回でも液状化と固化を繰り返すことができます。

膠の写真のところに温度計が一緒に写っていますが、したがって、ここの作業では温度計は必須アイテムであると言えるのです。

ジェッソ作成にもどります。ジェッソと膠とお湯を混ぜます。膠はジェッソの30%程度で良いと思います。塗れるほどの粘度があれば良いので、大体50度もあれば十分塗るための粘度は確保できますので、それ以上あげる必要もないです。「湯せん」するときは、必要以上に温度を上げない、そのように対処できたら良いと思います。

次にジェッソですが、これも画材店で簡単に購入することができます。以下はサンプル用に使っているジェッソの写真です。

ジェッソの外観

ジェッソはS,M,L,XLと4種類ありますが、最もスムーズなもの(この場合Sを選んでいます)を選びます。パウダー状のものでも、ゲル状(液体状)のものでも、どちらでも構いません。この写真のジェッソは液状のものです。このジェッソと膠を「湯せん」しながら混ぜて、作品に塗れる形になれば準備は完了です。

ジェッソを塗ること

豚毛のブラシ、できれば平なブラシを使い、最初のレイヤを塗ります。これは時折、薄い白い層と呼ばれます。容器を暖かい湯の中につけて、ゼリー状になるのを防ぎます。良好な基礎地ができるまで、6~8層重ね塗りします。

ジェッソを塗っている最中

次のポイントを経験の結果として覚えておいてください。8層塗ることができるに十分な量のSIZEを用意すること。次の層を塗る前に、前に塗った層は乾いていなければなりません。すべての層を塗る工程は1日で終了しなければなりません。火や、ラジエータで人口的に乾燥させるのは、木についてもジェッソについてもお勧めできません。

粘度の低過ぎるジェッソを使うと、ジェッソは砕けます。また、粘度がありすぎるジェッソを使うとパウダー状になって取れてしまします。塗る過程で、結び目や継ぎ目に突き当たったら、細かいリネン(亜麻布)や絹を使い、そのエリアを十分カバーできるだけの大きさに切り、2番目の層を塗る前に絹をジェッソの液につけて、そのパートに開いて動かして広げ第2層を形成します。

層を作成する過程で、サンドペーパーは使わないようにします。最後の2,3層を形成する際は、若干厚めに塗ります。水を少なめにし、SIZEはそのままにします。この点は覚えておくのに良い点です。手違いでSIZEまたはジェッソを煮立たせてしまったら、捨ててしまいます。こうなると泡を作りますし、他の複雑な回復困難な問題が発生するからです。(回復困難な問題とは再固化できなくなるために発生する問題のことです)

たくさんの層を作る場合、効率的にすべての箇所をカバーすべきです。なぜなら、よくあることですが、乾燥する過程で体積が減る場所が生じ、クラックが発生して層が壊れてしまうからです。ピンホールの修正や小さい欠陥の修正のために、白材とSIZEの混合物をパテ、または充填剤として使用しましょう。

目詰まりの件を話しておかなくてはなりません。

ジェッソ目詰まり

ジェッソが目詰まりを起こすとどうなるかを示した図が上の図になります。膠は温度が下がってきたところから固化しますので、目詰まりが発生すると、表面層から固化していく形になります。そのため、奥側のジェッソが、熱が引くころには体積が減り空洞になってしまうのです。中が空洞になるとジェッソが砕ける現象になります。ジェッソが砕けた状態というのは、以外にみなさん見たことがあると思います。古い絵画や、フレームなどでも見かけることがあったでしょう。以下はそのような状態になったときの写真です。

ジェッソの目詰まりによってクラックした状態

このような状態になりましたら、欠陥部分をサンドペーパーで削り落としてもう一度塗り直します。サンドペーパーは#80→#120→#180という順番で#180で終了させてください。これ以上の細かい仕上げを選択しても良いのですが、ジェッソを塗ることで表面は覆われてしまいますので、意味がないためそれ以上細かいペーパーは使いません。実は、この状態になっても、お湯(50度くらい)をかけると、再液状化して塗りを継続できるのですが、再液状化させるより、削り落とした方が作業の効率が良いので、削り落とす方を採用しています。

SIZEの代替え手段

次のステージに行く前に、SIZEとして羊皮紙片の代替えとなる方法を紹介します。ギルダーの道具屋で販売されているラビット・スキン・グルー(にかわ)です。これはゼラチンのシートの形をしており、若干暗い色をしています。準備のためにひとつを取り出し、いくつかの欠片に砕いて、鍋に入れて冷たい水で満たします。数時間浸したあとで、接着剤用のケトルで温めます。そして、羊皮紙によるSIZEと同じ方法を適用します。この方法は、少し早く準備できますが、使用方法は少し異なります。それは、バーニッシュにおいてもです。

ギルダーのホワイトニングのこの代替え手段は、パリの漆喰で満たされたもので作られなければなりません。良い品質のものを手に入れ、パンかタブに入れます。大量の水を加えます(しっくい1ポンドに対して1ガロンの割合)2,3日の間毎日時々かき混ぜます。時々水を替えることもします。熱が完全に引くと、破片は完全に消えます。3から4週間そのままにします。コンテナから取り出し、小袋に入れて、水を絞ります。必要になるまで細切れの塊にされ、ギルダーのホワイトニングの羊皮紙のSIZEとして使用されます。パリスしっくいのマイクロレベルのしっくい構造は、長寿命クリスタルのようにひき詰められた構造を見せており、ホワイトニングは殆どキューブ状の形をしています。作品に適用した場合、バーニッシュをホワイトニングよりよく受容します。これは何世紀にもわたり、水ギルディング、またはテンペラ画の背景塗装、または両者のコンビネーションで世界中で使用されてきた方法です。

良いジェッソ基礎の重要性

SIZEとジェッソを完全に混ぜることは悪い方針ではないので、ジェッソを細かいこし器にかけるとよいでしょう。8層=あるいはワークの性質でそれ以下であるかも知れませんが=の場合、最後の層がパーフェクトにできていることが何にもまして重要です。しかし、ビギナーにまれに現れる現象として、今準備しているグランドの表面は金箔を受け入れるプライマリであることと、最終的には石でバーニッシュされることを意識しなければなりません。金箔を刺激したり、引きはがしたりする何ものも、グランドには残してはいけません。覚えておきましょう1/250,000インチしか厚さがないのです。それゆえ、表面は非常にスムースでなくてはならないのです。ジェッソ以外で準備できないのは自然な成り行きです。

表面生成作業は必ずしも成功するとは限りません。時には表面がラフで、予想より均一でないことがあります。そういうときは、No.0かflourグラスペーパーを使い、影響のあるパートにスムースな表面を得るために、やさしくこすります。グラスペーパーでジェッソをわずかに削ります。また、例えば、空洞やジェッソが付着しすぎているパートを発見した場合は、リネン(亜麻布)の切れ端を水に浸して、絞り、モデリングツールに巻いたり、外形にピッタリあった木の切れ端に巻いて拭きます。グラスペーパーを使うときのように、十分慎重に行われなければなりません。ジェッソの表面が常に保全されるように。

この段階で、全体について、カービングツールで、配下にあるモデリングを再び削ってみたいと考えることがあるかも知れません。たとえば、造形のアウトラインを鋭角にしたい衝動にかられることがあるのですが、この行為はウォーターギルディングの質を上げることに寄与しません。なので、ジェッソによる準備がわずかに丸みを帯びてしまった場合、そのまま放置し、よりよい結果を得るためには、最後のバーニッシュで金属的な、より良い結果を得ることに集中しましょう。

ボーロ(bole)層の作成

次のステップは表面をアルメニアンボーロ(Armenian bole)でカバーすることです。

ところが、このボーロを日本で入手することができないため、ここの工程は現状飛ばしています。以下ではボーロ層の基本的な作り方を説明します。色を塗りたい場合はアクリル絵の具を使い、色を塗りましょう。繰り返しますが、必ずしもアクリル絵の具で塗らなくてはならないというわけではありません。

ボーロの色は赤色をしており、SIZEが加えられた状態で、すぐ使える状態で売られています。これは作るのは難しくなく、ギルダーの中には自分自身のボーロをピュアボーロから作ることを好む人もいます。このボーロは生の状態のPIPE CRAYと同量の水をグラスパレットの上でパレットナイフで糊と混ぜる方法で作成します。赤に加えて、黄色クレイをマットバーニッシュ(艶消しバーニッシュ)、またはブルーバーニッシュ用として購入することができます。後者はグラファイトを含んでおり、非日常的に明るいバーニッシュを得ることができます。すべてのクレイは混ぜ合わせることが可能で、特別なトーンに合わせたり、作品のスタイルに必要な色を得ることができます。特別な仕事のために、たくさんの量を使うことはお勧めできないということは、経験からのみ得られた教訓で、特にアンティークのギルディングの領域では悲惨な結果をもたらすと言われています。したがって、しばらくの間ウォーターギルディングには赤いクレイを、オイルギルディングには黄色いクレイを使い続けましょう。

適用するときは、いくつかの暖かい破片のサイズに砕いて、準備したボーロの中に入れ、均一な薄いボーロクリームになるまでかき混ぜます。クリームは良く混ざっていて、細かいメッシュで良くのびる状態になっていることです。この段階での準備で加えるSIZEの”強さ”はジェッソで作成した生地で使用した量の半分であることを覚えておいてください。全体で3から4層、全部同じ”強さ”で作成するのに十分な量を確保します。

最初の層は豚毛ブラシで作成されますが、残りはラクダ毛ブラシを使います。次の層に作業を移すのはそれぞれの層が乾燥してからです。ギルダーによっては、最初の層を薄く作って(すなわちボーロを少なくして)、それに続く層に少しボーロを加えたもの(少し厚いもの)にするのに練習が必要かも知れません。いずれにしろ、最後の層が完了し、乾燥したとき、すべての外観が暗い赤で均一に塗られている状況になります。白いジェッソの表面が背面に見えない状況になります。ボーロを塗るとき、塗り筆の山が形成される傾向があります。ラクダ毛のブラシがこのような傾向を防ぐのに役に立ちます。一晩、乾燥させますが、ほこりなどが付かないようにカバーをしておくのも良い方法です。

Cennino Cenniniは彼のギルディングの扱いの本に中で、ボーロに卵の欠片を混ぜることを示唆しています。最初に白を取り、コップか洗面器に入れ、砕いて、一晩おいて分離させます。同じ量の水を入れ、ボーロを加え、SIZEと混ぜ合わせます。卵の白い前準備以外、違いは殆どありません。フレンチバーニッシングクレイを購入するという選択もあり得ます。これは、小さなコーンでできていて、工場で卵の白はすでに入っているものです。そしてこれは、少しの量を必要とする場合、非常に便利なものです。とにかく必要なものは、塗装作業中、コーンの上で湿ったラクダ毛ブラシをこすることです。これは特に小さな修復の仕事の場合に適しています。

最後の準備

これからは、リネン(亜麻布)の切れ端を使って、ボーロの表面を細心の注意を持ってバーニッシュします。多分この作業をする前、ボーロの表面に小さい点や畝(rib)が小さなピンの先端のようにあることを発見できるでしょう。最初にこれらをNo.0のグラスペーパーで取り除きます。両者をこすり付け切削が取れ過ぎないように注意します。結果は高度に磨き上げられた暗い赤の表面になるでしょう。この段階で実際にはこの段階で作業した内容ではない作業もカバーします。ゴミのような異物、小さな砂など、いかに小さなものでも、バーニッシュの前後でトラブルの元となるものは除去します。