今回はウッドカービングの話題から少し離れ、指物教室に参加される方に準備していただきたい道具類を紹介したいと思います。
なお、ここでご紹介するアイテムは、最初からすべてそろえる必要はないと思います。
しかし、必須の手道具は何点かあります。
また、無い場合は教室で借りることもできますが、いずれは必要になる道具ばかりなので、長く続けるつもりならば購入することを強くお勧めします。
ここで紹介する道具類は、「何がいるか?」については書いてありますが、「どう使うのか?」については書いておりません。教室に参加する前に揃えたいアイテムという観点で書いていますので、これらをどう使うのかについては、教室に参加して教室で学んでください。
では、始めます。
鉋(かんな)類
何はなくとも、鉋(かんな)が無いことには話になりません。最も重要な道具です。用意しなくてはならない鉋はとりあえず次のとおりです。
- 荒仕工鉋(アラシコカンナ) 刃口48mm
- 仕上げ鉋 刃口65mm 寸六(スンロク)
- 台直し鉋
- 小鉋 刃口36mm(余裕がある場合)
- 面取り鉋 (余裕がある場合)
荒仕工(アラシコ)は汎用の作業用です。48mmサイズですので、手ごろで取り回しも楽です。今後のいろいろな作品作りにおいて、主力の鉋に(かんな)なりますので特に重要です。購入すると、長い付き合いになります。
現在、日本の鉋の場合、2枚刃が標準です。関東大震災のときに、震災で焼け落ちた家を手早く再建しなくてはならないことから、逆目でも順目でも気にせず「ガンガン」削れる用途として広まったと聞いたことがあります。
下側の鋼は「鉋身(鉋刃)」と呼ばれ、上側に乗っている小さい金属が上に乗っているにも関わらず「裏金」と呼ばれます。上の側は「頭(台頭だいがしら)」と呼ばれ反対側は「尻(台尻だいじり)」と呼ばれます。材料と接する面で、刃がわずかに出ていて、それで材料を削るわけですが、そこの箇所を「下端(したば)」と言います。(下刃かもしれないですが)課題で行う「下端定規」はこの刃の出具合を計るための「道具ではなく」、台の着き具合を調べる道具です。「双葉定規(ふたばじょうぎ)」と呼ばれることもあるようです。なぜ、双葉かは定規の形から来ているようです。
通常のかんなの場合、新品を買ってきて切れないのはあたりまえです。よく聞かれるのですが、「新品を買ってきたのに切れない」と。当たり前なのです。自分たちにとっては。たとえ「スグヅカイ(すぐ使えるように仕込んであるという意味です)」の鉋を買ってきても、必ず研いでから使ってください。研ぎの動作には、これから行う木工作業の基本的動作がすべて詰まっています。現在では「替え刃式の鉋もあるので、研ぎなんて習うのナンセンスっすよ!」と思う人はどうぞそうしてください。研ぎができる人とできない人では刃物の使い方、刃に関する感覚、手の使い方がまったく異なるので、作品にそのまま結果が現れます。見ている人は見ていますので、わからないだろうと思う人も、どうぞそうしてください。
仕上げ用鉋はスンロクです。初めて使う人にはちょっと大きく、重いと感じるかも知れません。その名のとおり仕上げ加工をするときに主力鉋となります。スンロクの上のサイズが寸八(スンパチ)で刃口が大体70mmくらいのものになります。スンパチはある程度慣れてから買うでいいと思います。当面はスンロクで足りるでしょう。アラシコと同じ2枚刃です。
台直し鉋は別名「立ち鉋」といい、他のカンナと異なり、刃が垂直に立っています。鉋台を仕込むための特別な鉋です。刃口が42mmと見えますね。アラシコや仕上げと異なり、通常1枚刃です。横向きの写真がありますが、刃が立っていることを見せるために撮影したもので、鉋本体を横に寝かして使うことはありません。一方、アラシコ、仕上げ鉋の場合は、台を横に寝かして使うことは多くあります。したがって仕込み方法は他のカンナと少し違います。具体的にはサイドの仕込みをしないことと、下端はベタ裏で仕上げることです。
以上、3台くらいあれば、当面は大丈夫です。
余裕がある場合、小鉋も1台あると便利です。
小鉋は手の平に収まるサイズの小さなものです。仕込み方は「アラシコ」、「仕上げ」と同じです。刃口は36mmです。細かい作業をしたり、ちょっとした修正をするときに使います。取り回しが楽で、これも非常に重宝します。
また、面取り鉋も作品を作るときは良く使います。
作品を作ったときにC面取りを行うために特化した鉋です。Ⅴ字に傾いたあたりの部分の上の箇所に鉋刃がセットされていて、これで面取りを行います。この道具を使って面取りを行う場合と、使わないで面取りを行う場合(ノミ等で面取りを行う場合)とで、仕上がりのデキは全く異なります。当然面取り鉋を使った方がデキは数段良いです。
日本の製品の場合、直線的な造形ものが多いので、この面取鉋で多くの場合事足りてしまいます。しかし、自分が作るような作品の場合、たとえば曲線が多く、非常に狭い範囲で面取り作業をしなくてはならないようなケースが多い場合、このツールは使えません。その場合は、コーナリングツールという別のツールを使うのですが、その紹介は別の機会に行います。
鑿(のみ)
最初に揃えておきたいノミのリストは次のとおりです。
- 1分(ブ) 3mm
- 2分(ブ) 6mm
- 3分(ブ) 9mm
- 10mm
- 4分(ブ) 12mm
- 6分(ブ) 18mm
- 8分(ブ) 24mm
- 10分(ブ) 30mm
- 14分(ブ) 42mm ##ホームセンターで購入できる一番大きいサイズでした。もちろん、もっと大きいのは存在すると思いますが。
mmの単位は大体の寸法です。
桐の箱に入った、10本組み、みたいなセット物もあります。
しかし、ノミはゆくゆくはいろいろなサイズが欲しくなります。というのも、小は大を兼ねないからです。例えば、10mmのホゾ穴を空けたい場合、3mmのノミでゴソゴソ何回にわけてほじればできないわけではないのです。
ですが、作業的にも、デキの面からも最初から8mmのノミで作業をすべきです。(両側1mmのマージン1mmを取ったとして)
最初からバラで購入していき、必要になったら必要なサイズを買い足す、という方向で十分と思っています。
この中で、使用頻度の観点で見ると、圧倒的に2分(6mm)が主力になります。次に多いが、1分(3mm)で、その次が14分という並びになると思います。順番に必要になったサイズから買い足してください。
それから、これは単なる推察ですが、10mmというのは昔は無かったのではないかと思います。というのは、分としてあまりにキリが悪いので。多分、メートル表記に慣れた人がどうしても10mmというサイズが欲しいと思い、需要が増えてしまったからラインナップに加えたのではないかと。
詳しいことは教室で説明しますが、10mmで作るような設計は、あまりよろしいとは思っていません。10mmの入手は一番最後でいいですかね。
それから、あると便利系では、何点かご紹介します。
- 0.5分(ブ) 1.5mm
- 三方刃
0.5分もあると便利です。
しかし、自分のように超細かい仕事をする場合は必要になるかも知れませんが、あまり一般的ではないかも知れません。また、見たとおり幅は狭いのですが、背丈が高いので細かいところに届かいときがあります。
細かいところをやりたいときで、背丈が高くても許容されるという感じに使うと。
狭いところで、細かい作業をしたい場合は、カービングツールの方が重宝します。
三方刃ノミもあると便利です。ホゾを作ったりするときの穴の際を加工するのに使います。
写真で見るとおり、3方が刃になっているのが特徴です。ただし、サイドの刃は研げません。なので、サイドの刃をつぶして使う人もいます。折角、三方刃になっているのにもったいないですね。つぶすと普通のノミと変わらなくなってしまいます。呼びを任意で選べないのも欠点です。写真は10mmのようですが、あまりバリエーションはありません。
鋸(のこ)
良く切れる鋸が必要ですが、今は刃を見立てることは殆どしないので、替え刃のものが主流です。次ののこは必須です。
- 9寸玉鳥(ギョクチョウ)替え刃式両刃鋸
- 深沢秀鳳 210mm 24枚目
- 胴付鋸(横引用)NAKAYA替え刃式
- 胴付鋸(縦引き用)NAKAYA替え刃式
- 釘引き
ギョクチョウは会社の名前です。横引きと縦引きがついている鋸を両刃鋸といいますが、玉鳥は切り口が粗目になりがちなので、木どり(原木から木を切り出すとき)など、あまり仕上げに関係ない箇所で使っています。とても丈夫です。
兵庫県三木市の(有)義若さんの鋸。210mm 24枚目です。切れ口がきれいで曲がらずに切れるところが気に入っています。
個人的経験になりますが、ここのおばあさんに電話で替え刃の注文をしているときに、東日本大震災が発生しました。「今、なんかゆれてるよ!」「そうかい、こちらは何ともだけど(あたりまえ)」みたいな会話をしたのを覚えています。
プロしか売らないそうで(笑)鋸をくださいというと、何を切るつもりか聞かれます。(笑)相談に乗ってもらえそうなので、遠慮せずなんでも聞いた方が良いかも知れません。
NAKAYAはメーカーの名前です。胴付鋸とは、写真のように背中に胴がついている片刃の鋸のことです。横引き用と縦引き用があります。そのどちらも必須です。横引き用は鋸身が0.3mmで縦引き用は0.2mmのはずです。ノコミ0.3mmは指物で許容できる誤差の上限ですので、縦引きと横引きで同じように引くことはできません。細かいことは教室で練習してください。
自分の釘曳きは写真のとおり、バキバキに折れています。(T_T)
しかし、切れないわけではないので、出番が少ないこともあり、替え刃にせずそのまま使っています。
釘引きとは、アサリがない鋸です。ダボ引きということもあるようです。アリ組やアラレ組して飛び出た木のパートをこの鋸で落とします。
砥石、およびその周辺の備品
さて砥石です。砥石は水砥石を使います。以下の種類が必要です。
- 荒砥 #600~800
- 中砥 #1000
- 仕上砥 #7000
写真は自分の荒砥と中砥です。真ん中が荒砥石(#800)で、両脇が中砥(#1000)になります。一番左の中砥は滅茶滅茶減ってますが、完全になくなるまで使えます。自分はこのくらい薄くなったので、一番右側の中砥に乗り換えましたが、そちらも大分減ってきているようですね。キングの砥石を買ってください。
それと次の3品もご用意ください。
- 金板
- 金剛砂
- ダイヤモンド砥石
金板と金剛砂とは以下のようなものです。
鉋やノミの研ぎを行うときに、刃ウラを出す(裏ダシ)のに使用します。日本の刃物は刃ウラで切ると言われます。よって裏も非常に重要です。日頃の研ぎはシノギ面だけを研ぎますが、研ぎをしない裏ができあがっていない場合、まともに切れる刃物はできません。
ダイヤモンド砥石は#1000と#400が表裏でセットになっているものと、#150と#600がセットになっている物の2種類があると思います。多くの人は#1000推しですが、自分は#150推しです。ダイヤモンドを使う用途を超荒研ぎの段階に限定しますので#1000は必要ないという考えからです。#1000は中砥で十分だし、ダイヤモンドの#1000は中砥の#1000のようにきれいに研げません。金板と金剛砂のペアも結局#150くらいの粗さになります。ダイヤモンド砥石に油砥石用の油を塗布してはいけません。目詰まりを起こし、機能しなくなります。
また、以下の物も研ぎ周辺備品として必要となります。
- 名倉砥石
- 椿油、ツボ
- カンナ研ぎ器
- 面直し用砥石
- 研ぎ台
もあると重宝します。
名倉砥石とは仕上げ砥石で研ぎを仕上げる前に、仕上げ砥石にこすり付けることで砥クソを生成し、その砥クソを用いて仕上げを行うものです。仕上げ砥石を購入するときに、同時に購入してください。1個あると一生使えます。
研ぎが終わったとき、シノギ面に椿油を塗布しないと錆びてしまいます。椿油の塗布用綿棒は写真のように竹にガーゼ、脱脂綿で製作することもできいます。
一方で、市販品で椿油用の塗布品もあります。(写真の黒のビンに赤い蓋のものです)
また、絶対必要と考えられるのがカンナ研ぎ器です。
これらは、カンナ、あるいはノミの研ぎの際に必要となります。特に1分レベルのノミの研ぎに関しては、必須アイテムと考えられます。
写真左側は日本国内で良く目にする、車輪が1つあり、カンナ刃、またはノミを左右からクランプするタイプのものです。
一方、右側のものは車輪が長い円筒形になっており、カンナ刃、またはノミを上下方向からクランプするタイプのものです。
性能的には、上下でクランプするタイプ(右のタイプ)の方が圧倒的に良いと思います。しかし、海外品なので、日本で入手できない場合は、左のもので我慢します。
研ぎ台、および砥石の面直しに関しては次のとおりです。
ホームセンターで売っている青い箱に木で渡しを設けて、その端に砥石の止め用の木を接着したものが、一番左の自作研ぎシステムです。箱の中に水を張り、砥の粉はその水の中に落とします。
中央、および右の写真は研ぎの際に使用する周辺付属品です。
一番上の円錐形のものは丸ノミの研ぎ用水砥石、真ん中と一番下は面直し用の砥石です。
玄翁(げんのう)
一般的に使うものは100匁(もんめ)から120匁(もんめ)の玄翁です。1匁は3.75gですので、375g~450g程度までという感じになります。カンナの頭をたたいたり、ホゾを組んだりするときに使います。
玄翁は柄の長さでクラス分けされることが多いようですが、我々の場合、柄が長い、短い、曲がっている、真っすぐであるというのはあまり大きな問題ではありません。釘を打つわけではないので。
持ったときのバランスで、玄翁自身の加重でハンドリングできるかできないか、という観点で選ぶのがよろしいと思います。人によって、腕力は異なりますから。
カンナの頭を小槌で叩く人もいますが、我々は玄翁で叩きます。
白罫き(書き)(しらがき)
精密に仕事をするときに材料に線を付ける道具です。
材料にエンピツで線を描いて切削するのは、誤差が大きすぎて仕事になりません。エンピツでの墨付け(スミツケ)(0.5mm)では太すぎるのです。ならば0.3mmのシャーペンを使えば良いかというと、そういう単純な問題でもありません。0.3では木の導管に入ってしまって線が描けないのです。
自分はシラガキがないと、ほぼ仕事になりません。
右勝手用と左勝手用があります。写真で見ると、刃の向きが異なっていることに気が付くと思います。それで簡単に見分けがつきます。写真の場合、真ん中が左用です。
しかし、右利き用、左利き用という単純な分類ではありません。普段、右用を使っていても、場所や形状により、どうしても左用を使わないといけない場合があります。そのような時に右利きの人も左用を使います。
罫引き(ケヒキ)
二丁鎌ケヒキという道具です。
側面に対して平行な線を墨付けする道具です。2丁あるので、これがあれば簡単に5枚のアラレ組の墨付けができます。せっかく2丁あるので、有効に2丁使って欲しいのですが、ちゃんと使えている人を見ることが少ない、めずらしい道具とも言えます。
1個といわず、数個持っていると、作業の効率がすこぶる良いです。
黒いところは「紫檀(シタン)」という木でカバーしており、耐久性をあげています。写真は金四郎作です。
スコヤ
直角を図るための道具です。
大きいサイズと小さいサイズがあると便利です。
小さいサイズは値段が安いか?というとそういうことはなく、大きなサイズのスコヤを作ってから要らないところを切って、小さなサイズにするという製造方法らしく、大きなサイズのものより結局高いものになります。
左は松井精密の最小のスコヤで、右はスコヤセットになります。大きいのは大きいなりに、小さいのは小さいなりに使い道があります。
定規類
そのほかあると便利な定規類はつぎのとおり
- デジタルノギス
- 指金(50cm)
- 15cm直定規 SINWA工業
- 1m直定規
- 自由スコヤ 15cm
- プロトラクター φ90 平目盛10cm
- 止型定規 目盛付き
デジタルノギスは、すごい便利なので、絶対買ってください。これもないと、自分は仕事になりません。
0.数mm程度の精度で作業をしなくてはなりません。なので、どうしても必要です。難点は電源が自動で切れないこと、電源を入れっぱなしにして放電してしまったこと多数。
直定規系は50cm指金、1m直定規、15cm直定規を用意してください。特に、15cm直定規は計る以外にも「ノリ」を延ばしたりする際にも使いますので、必ず用意してください。
自由スコヤはアリ組のホゾを作るときにプロトラクターとセットで使います。止型定規は止加工を行う時の必須アイテムです。
以上、駆け足になりましたが、道具の紹介を終わります。